『妹』

なんかお姉ちゃんがこっち見てた。高校校舎の二年生の教室の窓から。そこからわたしのことを覗けるのか、一体何時から、何日からなんだぁ。あ、と思ったら隠れてしまった。おのれお姉ちゃん、そっちだけジロジロいやらしい目で見てたなんてずるい。そんなずるいお姉ちゃんが好き。

しかしそういうわけか、ここ最近お姉ちゃんの様子がご機嫌というか、いつにも増して頭の中が良い意味でお花畑ぽかったのは。花のような美しいお姉ちゃん。儚げな一面も兼ね備えてるお姉ちゃん。二人の花で花園を創ろう。閉鎖空間にしよう。

席替えしてたらそこから妹が見えるって、さすが血縁に留まらない運命を持ち合わせているだけあるね、お姉ちゃん。ほら、相手の顔が見えただけできっとこうして心で通じ合える。だよね?わたしのクラスはおそらく席替えをしない決まりがわたしの認識外で決定されていたようなので、結果的に嬉しい。お姉ちゃんが再び席替えしない限り今まで叶わなかった授業中のふれあいができる。降れ、愛。

といっても今学期は今日までだけど。来学期からの楽しみができたやい。楽しみというか嬉しさというか喜びというか望みというか愛というか生きるという感じ。お姉ちゃん、好き。

そういえば夏休みの予定は未定だけど、例年はお姉ちゃんが先んじて何かしら考えてくれてるからなぁ。去年は例外的にわたしの中学受験でほとんど家に居た。

わたしは塾、夏期講習なんか行かず、同じ道を通ったお姉ちゃんに昼間から愛の授業をたっぷり味わった。その甲斐あって今のここにいるわたしがいる。よくわからない空間でよくわからない人間に教わるよりもお姉ちゃんの方が満足度がケタ違いだ。むしろゼロと無限大だ。塾行ったことないけーどー。

一応水着は買ったりしたけど結局泳げなかった。今年こそは海やらプール、できれば前者に行きたいなぁ。日に焼けるお姉ちゃん。水飛沫を浴びるお姉ちゃん。見つめていたい。ともかく、計画性のあるクールビューティお姉ちゃんに期待しよ、ふふっ。

あぁそうそう、今わたしがいるこの教室。学校。この学校は中高一貫で、校舎も二つに分かれてはいるけど綺麗に隣合っているので反対側の教室を覗けたりするのだ。そのことは受験前からお姉ちゃんづてに知ってたし、お姉ちゃんと観察し合いっこできるかも、と思っていたが、席の配置について考えていなく、入学式当初はそれはたいそう落ち込んだ。

はぁ早くお姉ちゃんと結婚したいなぁ。早く早く早く早く早く早く。婚姻届買いに行くべきかなこれは。わたし達の一生の誓いは許されないものなはずがないのだから、許されるべきという許しに則ってわたし達を許そうじゃないか。世間よ。そうすればわたしもちょっとは許すと言うと大袈裟だけど多少は関わってあげてもいいよ。虚実織り交ぜてみた。

でもお姉ちゃんが愛すべき人だというのは実際実に事実で真実であるとして実現してるのだよ、実は。一見実のあることを言えてないようで、お姉ちゃんのことを言ってるから充実してるのでした。お姉ちゃんのサラサラで白色を否定することを肯定せざるを得ない黒髪とかー、すらりとして教室とかそこらへんの無駄な霜降り和牛娘の無駄さを添削した満点の手足とかー、ちょっと吊り目な眼球付近とかー、模範という意味の次元を超えたモデル体型とかー、眉毛とか耳とか鼻とか口とか顎とか首とか肩とか胸とかおへそとかお腹とか背中とかお尻とかあれとか太ももとか膝とか踵とか。兎角全て可愛いで正義なの。外見だけじゃなく、中身もね。あ、もちろん脳とか心臓とか食道とか血液とかも愛らしいのは言うまでもないけど、ここでは精神的な方ね。お姉ちゃんのことは、不肖わたし、妹として、尊敬しまくりでございます。成績優秀、運動神経優良、なんて外部化されたものはさることながら、あの姉としての妹想いな高尚な御心これこそが注目すべき姉の部分なのですよ。

神の御加護を一身に受けられる、あぁ幸せ。


ん、チャイムが聞こえるぞ。時計を見よう。むむっ、どうやら昼休みになっていたらしい。これは由々しき事態。

さぁお弁当を持ってお姉ちゃんの教室に行こう。