落ち着きを取り戻した私は、彼からゆっくり離れた。

今崎「落ち着いたか?」

「う、うん」

今崎「何があった?」

話すのを少しためらったが、心配そうに私を見る彼を見て、全部話そうと思った。

「、、、、怖いの。」

今崎「え?」

「いきなり帰って来た時とか部屋に入って来
た時の扉の音とか、大きな物音とか。
父親が私の所に来たり、家で暴れたりした
時の音だからだと思うけど。
手を上げられる前に、そういうのよくあっ
たから、、、。」

すると彼は、

今崎「分かった。
今日の夜、父さん達に話して、何か対
策考えよう。」

(それじゃ、また迷惑がッ‼︎)

今崎「誰も迷惑とか思わねぇから。」

(え⁉︎今、私、声に出してた⁉︎)

今崎「言わなくても、お前の考えそうな事は
分かるっつーの。」

(また、読まれた、、、。)

「す、すごいね、、、。」

今崎「だって、俺、住崎と付き合う前からお
前の事ばっか見てたし。」

「う、うそ、、、。」

今崎「ほんと。
ほら、立てよ。」

そう言って、手を差し伸べてくれた。

「ほ、ほんとに迷惑じゃないかな?
私なんて、皆にとっては赤の他人なのに。
なんでそんな余計な事までしなきゃいけな
いんだ、って思われないかな?」

今崎「おまッ、、、。

はぁ〜〜」

ため息をつきながら、差し伸べられた手がおろされた。

今崎「もう1回言うけど、お前ここに何日いる
んだよ。
俺の家族にそんな事思う奴いねぇよ。
だから、そんな心配すんな。
もうちょい、俺の家族を信頼してくれ
よ。な?」

(信頼、、、。)

心の中で、その1つの言葉が浮き上がってきたような感覚になった。

「、、私、信じるってことも怖いのかも。」

今崎「、、、なんで?」

「お母さんがね、父親から逃げるために、私
を置いて出て行ったの。
父親は私が小さい頃から暴力酷くて、お母さ
んは私を守りながら、頑張って育ててくれ
た。
『千奈美は私がずっと守ってあげる』ってず
っと言ってくれてたのに、いきなり知らな
い男連れて来て、出て行ったの。
私もついて行きたかったよ。
なのに、、、お母さんは私を置いて行った
の。
だから私は、私よりも知らない男を優先し
たお母さんが許せない。
裏切られた、見捨てられたんだって思った
から。
兄にだって裏切られた!
私が殴られて蹴られて、苦しかったのに!
なのに、冷たい目だけ向けて、助けてくれな
かった。
元々仲の良い方じゃなかったけど、助けて
くれると思ったのに‼︎
私の苦しんだ姿を見慣れてくれば、『警察
沙汰にだけはするなよ』って。
もう、誰も信じたくない‼︎
頼りたくなかったのに‼︎
結局私は今崎君や今崎君の家族に頼った。
頼ったのに、信じきれない自分がいるの‼︎
もうやだッ‼︎

こんな自分が、1番嫌だよ、、、。」

途中から今まで溜め込んできたものを吐き出す様に、泣きながら声を張り上げていた。

ずっと黙って、ただただ聞いてくれていた彼は、包み込む様に私を優しく抱きしめた。

「今崎、君、、、?」

今崎「辛かったな。」

彼から聞くその言葉が嬉しくて、私はまた泣いた。

今崎「せっかく落ち着いたのにな〜」

そう言って笑ったが、彼はまた私の背中をさすってくれた。