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午後七時。


酒場が本格的に営業を始め、お客がちらほらと入ってくる。


私は、いつもこの時間は部屋にいるが

今日は特別にロディと共にレイの見守り役として酒場にいた。



───キィ。



すると、その時

酒場に一組の男性らが入って来た。



すかさずレイへと視線を向けると

いつもの180度違う優しい表情で口を開いた。



「いらっしゃいませ。

カウンターへどうぞ。」



…!


ぎ、ギルだ……!

どう見ても、今のにこやかフェイスはギルの笑顔だ…!


普段からは想像出来ない柔らかい表情に

私はつい、見惚れてしまう。


男性客らも、穏やかな雰囲気でカウンターの席に腰を下ろした。


カウンターの端の席に座っていたルオンも、「やればできるもんだね〜」とからかうように言っている。



…けっこういい感じだな。

これなら、レイの“第一印象が悪い”という悩みも、すぐ解決できそう。



やがて、酒場に続々とお客が入り

午後八時を回った頃。


酒場はいつも以上に賑やかだった。


カウンターに座るルオンは、店に来た女性二人組と話をしている。



「え?ルオン君って、このバーテンさんの弟なの?」



「うん、そうだよ!

僕の兄さん、カッコいいでしょ?自慢の兄さんなんだっ!」



「わぁ、顔とかそっくりだね。

私も、ルオン君みたいな可愛い弟が欲しかったなぁ〜。」



「え〜、照れちゃうな。ありがと。

お姉さん達の方がずーっと可愛いよ。」



…っ。


手慣れてるなぁ…。



すると、レイが彼女らに向かってピンク色のお酒の入ったグラスを差し出した。


そして、色気倍増のギルスマイルで口を開く。



「こちら、爽やかなカシスのカクテルです。

可愛いお客様へ、僕からのサービスです。また、この店にいらしてくださいね。」



…っ。


いつもなら、あんな恥ずかしいセリフ言わないのに…!

サービスなんか、しないのに…!



年上のお姉さん達に、きゃーきゃー言われてるレイとルオンを見つめながら

私の隣でロディが呟く。



「…あの兄弟は猫をかぶらせたら最強だな。

いつも以上にお酒が注文されていってる。こりゃあ、常連が増えそうだ。」



…つまり、売り上げ上昇ってことだよね。



あぁ…

やっぱり、レイってかっこいいなぁ…。


ギルバーテン…いいかも…。



私が、つい顔を緩ませた

その時だった。



綺麗なお姉さん達の隣に、ドサ、と一人のお客が腰を下ろした。


レイは、渾身の営業スマイルで声をかける。



「いらっしゃいませ。何にいたしましょうか?」



すると、お客は顔を伏せながらレイに答える。



「うーん…じゃあ、アタシのイメージでカクテルを作ってください。」







私とロディは、ぴくり、と反応してお客とレイを見た。



…バーテンダーって、こういう注文をされることがあるんだ?

大変だなぁ…。