───キィ。


ある日の昼下がり。


珍しく昼間に酒場の扉が開いた音にカウンターから視線を向けると

そこには漆黒の髪の青年の姿があった。



「!ロディ、久しぶりだね…!」



ルミナはロディを見るなり、ソファから立ち上がって彼に声をかけた。


ロディは「よぉ、嬢ちゃん。元気そうだな」と笑みを浮かべて

つかつかとカウンターに歩み寄って、俺の目の前の席に腰をかけた。


ルミナも、ロディの隣の席へと座る。



…ロディがタリズマンの情報屋になってから酒場に来るのは久しぶりだな。


相棒の顔を見られてホッとした。


なんだか、闇喰いをやっていた頃の日常に戻ったみたいだ。


俺は、脱いだコートを背もたれにかけたロディに向かって声をかけた。



「ロディ、何か飲むか?

あ、そういえば昨日新しい酒を買ったんだ。夜にでもまた来ないか?」



すると、ロディはカウンターに頬杖をつきながら静かに答えた。



「あー…悪いが、遠慮しておく。

俺は今、“禁酒中”なんだ。」



「「“禁酒中”?」」



俺とルミナの声が重なった。


え?

今、なんて言った?


ルミナが、驚いてロディに尋ねる。



「お酒好きなロディが“禁酒”なんて、どうしたの?

…まさか、どこか悪いとか…?」



ルミナの言葉に、俺はまじまじとロディを見つめた。


…確かに、俺はともかくロディが禁酒なんておかしい。


ロディはよくタバコを吸っているし、体を壊したんじゃないだろうな…?

医者にでも止められてるのか…?


俺とルミナが不安げに見つめていると

ロディは、苦笑しながら口を開いた。



「心配するな。俺はいたって健康体だ。

原因はそういうんじゃない。」



…?


俺とルミナが首を傾げると、ロディは俺たちが予想だにしていなかった言葉をさらりと発した。



「この前、ミラと飲んだんだが、つい酔いが回ってな……

まぁ色々あって、反撃してきたミラに殺されかけたから、当分酒はやめようと思っているだけだ。」



「「え?!」」