「…もう嫌。

何でこの家には、まともな食材がないわけ…?」


モートンと樹海の中のログハウスで同居を始めて三日目。

僕の言葉に、ふわふわの髪の毛に白衣を着た天然魔法学者がゆっくり答えた。



「僕はココアとコーンスープがあれば生きていけますし…

病気にかかっても千歳草で全部治してどうにかやってこれたので…」



「何言ってんの?!食事忘れて研究室でぶっ倒れてたのはどこの誰?!

勝手に死んだりしないでよね。僕、執行猶予で監視されてるんだから。世話を放棄したって言われて犯罪者にされちゃ困る。」



モートンと僕は、とにかく波長というものが合わない。

まぁ、樹海にログハウスを建てて一人で魔法書の研究を続けてきたモートンと話が噛み合う奴なんて、誰一人としてこの世にいないだろうけど。


…まぁ、一緒に住むと決めた以上

僕はこの人の“世話係”として生きていくしかないってことだよね。

兄さんが、十年以上もここで暮らしていたなんて、信じられない。


僕は、モートンに向かって声をかけた。



「とにかく、壊滅的に生活能力が低いあんたの代わりに、僕が掃除洗濯、料理買い出しを全てやるから。

白衣もちゃんと洗いに出して、夜はちゃんと寝室で寝てよ。…いちお聞くけど、あんた嫌いな食べ物とかあるの?」



モートンは、ふわふわした声で僕に答えた。



「僕は、ピーマン以外なら食べれます。

掃除洗濯に料理まで…ルオン君は、なんでも出来る器用な子だったんですね。」



「別に、一人暮らししてたから慣れてるだけ

っていうか、このログハウス、立地条件悪すぎ。市場から遠いし。買い出し行きづらいんだけど。」



「…?そうですか?

瞬間移動魔法なら、すぐですよ。」



「僕は魔力を剥奪されたの!

知ってるだろ、あんたは!!」



もー。

何なんだよ、この学者は…!


ってか、ピーマン食べられないって…

本当にこの人、大人かよ。


兄さんが“慣れるまではストレス溜まる”と言っていた理由がよく分かった。



「あ、ルオン君。一つだけ僕から同居の上で守ってほしいルールがあります。」


「…何?」



モートンは、はっ、と何かを思い出したような仕草をして僕を見た。


…めんどくさいルールじゃないといいな。


朝は必ず庭でラジオ体操とか言われたら、家出しよう。


この天然魔法学者なら言いかねない。


まぁ、寝る所と食べるものをくれるモートンの言うことを、ちゃんと聞くのが僕の義務だってことは分かってるけど。



すると、モートンは言い出しにくい様子で、そわそわし出した。



…この人、僕に気を使ってる…?



僕は、はぁ、と息を吐いて口を開いた。



「…あのさ。ここに住まわせてもらう以上、モートンにはルールを僕に守らせる権利があるんだから、何でも言いなよ。

…まぁ、出来ることは何でもするし。」



すると、モートンは覚悟を決めたように口を開いた。



「んー…では、少し言いにくいのですが…」



「…何。」



「ルオン君は素を出さなければイケメン紳士に見えますから

当然、街で女の子に声をかけられて仲良くなることがあるかもしれませんけど…」



…褒めてんの、けなしてんの?



まぁ、僕が猫をかぶったままなら、姉さんを落とすぐらいわけないけどさ…。



「…何が言いたいわけ?はっきり言いなよ」



すると、モートンは僕の予想をはるかに超えた“ルール”を口にした。



「ログハウスに女の子を連れ込む時は、僕が研究室にこもっている時にしてくださいね。」



「っ!!そんなことするわけないだろ!

な、何言ってんの、バカじゃないの!」



つい動揺してしまった僕に、「今の、レイ君にそっくりでしたね〜」と微笑ましいと言わんばかりの笑みを見せたモートン。


奴の食事が一ヶ月間ピーマンづくしになったことは言うまでもない。