執事らしかぬ容赦ない拳骨が飛んできた。

……うん、普通に痛い。

間違い無くこいつは本物の蝶野だ。


「ったく……何があったのか存じませんが、昔のような扱いはおやめください」

「蝶野さん落ち着いてください、どうやらそんな事言ってる場合ではないようですよ」


いつの間にか蝶野の後ろにいた真吹が、蝶野の肩を叩いて落ち着かせる。

普段落ち着きの無い奴に落ち着けと言われてる変な光景だ。


「市木さんはどうしたんです~?状況を教えてくれませんか?」

「あ、あぁ……」


俺は最初から最後まで説明する。

振り返ると、自分の情けなさが身に染みた。

冷静に考えれば、あいつは昨日まで児童養護施設にいた『人形』だったんだ。

いくら物事の飲み込みが早いとはいえ、そう都合良く判断や危険の察知が出来るわけが無い。


「ふむむー、そういう事ですか。とりあえず、時流様がご無事で何よりです」

「何呑気に言ってるんだ、真吹!人が一人攫われたんだぞ!俺じゃないからGPSも付けてないし……」


あいつに何かあったらと思うと、落ち着いていられない。