「市木?どうした?パンが潰れてるが……」
「ふぇっ、あ、あー!!」
いつの間にか手に力が入ってて、丸いパンが楕円形になっていた。
れ、麗歌ちゃん、ごめんなさい……
☆
正門前まで歩くと、外国車が止まっていた。
蝶野さんの車だ。
か、顔、もう赤くないよね……?
なんとなく気恥ずかしくて、ぺちぺちと頬を叩いて冷ます。
「お待ちしておりました。時流様、小紺様」
恭しく頭を下げて、蝶野さんが運転席に座ったまま、自動で後部座席のドアをガチャリと開けてくれた。
「市木、先に乗れ」
あれ、通常ならご主人様が先に乗るものじゃないのかな?
疑問に思ったけど、使用人として時流様の言う事は絶対聞かなくちゃならない。

