「いいえ……その……」

「シンデレラだって、十二時までの魔法っていう限られた時間の中で舞踏会へ行ったんだ。幸せになる為には、短い時間の中で楽しむのが良いんだよ」

「ヒュー!時流様、詩人ですねぇ、ポエマーですねぇ、キザったらしーですねぇ!平成初期頃のイッタい俳優かアイドルみたいでございます!」

「おい真吹!お前馬鹿にしてるだろ!」


茶化すメイドさんに噛み付くように、時流様がシートベルトを最大限に伸ばして抗議する。

比喩表現が失礼だけど、首輪を鎖で繋がれた猛犬みたい。


「時流様、じっとしてくださいませ。車体が揺れます故」


一人、執事さんだけが冷静だけど、ミラー越しに見える口元が笑ってる。

……なんだか、おかしい。お金持ちのはずなのに、庶民的。


「……ぷ」

「なんだ、お前、笑えるんじゃないか」


え?

私、笑えてるの?


「やっぱり殺人鬼なんて嘘だろ。……蝶野、スピード上げてくれ。早くこいつを着替えさせてやりたい」

「承知致しました」


時流様の命令通り、車は加速していった。