車は勢い良く左折し、ゴチンとまた頭を窓にぶつける。

頭をさする私を小馬鹿にするように、小薗江さんの口元がニヤつく。


「戻りたいのか?」

「…………」


答えられない。

使用人としての仕事を全うしたい、時流様を助けたいという気持ちはある。

けど……時流様にもう会えないのかと思うと、酷く心臓が痛んだ。

……なんだろ、この感じ。

ギュッと胸元に手を当てると、ドクンドクンと叩くような感覚がある。


「まぁ心配しなくても、すぐに分かるけどな」


もうすぐ着く、という事か。

口笛でも吹くように息を吐き、とりあえず気持ちを落ち着かせた。

窓の外を見ると、空は段々と暗くなり夜に近づいてる。

皆帰路を急いでるのか、軽く渋滞していた。

攫われてから、そんなに時間が経ってたのか。


「なぁ、お前自分の過去覚えてねぇの?」

「過去ですか?……貴方がさっき言ったんじゃないですか。知ってるんでしょう?私はあの女に……」