「…いや。お前はさっさと“戻れ、奏多”」
「…はい。若がそう言うなら」
ふっと威圧感が消える。
目の前にいるのが“奏多”に戻る。
…まさか、抗争でもないのに切り替わるとは思わなかった。
琴音に視線を落とす。…無意味、だったか?
「若?」
「なんでもない」
組員たちが開けた道を進み、屋敷の中に入る。部屋に入り、琴音をベッドに寝かせたところでようやく張り詰めていた気を解いた。
勝手にこぼれたため息は思っていたより大きなものになる。
奏多も暁も、琴音の傍にいたことで優しくなったと思っていた。だが、実際には暁は琴音に執着し、奏多は二面性を悪化させた。
不安定な琴音の傍はそれだけ危険だったのか。
…監視役を変えるべきなのかもしれない。非情に、琴音を見張ることに専念できる奴に。
「…っ」
「…」
考えるのは後回しか。ゆっくり目を覚ました琴音は、まだ覚醒しきっていない顔をしている。


