「若、待ってください!」
信洋をかわし、近づいてくる暁に普段の冷静さはない。
殴って正気にさせるか…。拳を握りしめたとき、隣を誰かが通っていく。
そいつは暁の前に立ち、肩をつかんで歩みを止めさせる。
「暁、止まれ」
「っでも!!」
「命令が聞こえなかったのか!!」
奏多の一喝に暁は怯み、ようやく動きを止める。
振り返った奏多は、琴音の前では決して見せない顔をしていた。あまりにも暗く、死戦を掻い潜ってきた目。
俺が、そうさせてしまった目だ。
「…奏多、暁と待機してろ」
「分かってますよ。…“その子”尋問します?」
ゾクリと背を何かが撫でる。
目の前にいるのは南 奏多だと分かっている。なのに、こいつは“奏多”じゃない。
スイッチが切り替わりやがったのか…。


