私のご主人様Ⅲ


「若、待ってください!」

信洋をかわし、近づいてくる暁に普段の冷静さはない。

殴って正気にさせるか…。拳を握りしめたとき、隣を誰かが通っていく。

そいつは暁の前に立ち、肩をつかんで歩みを止めさせる。

「暁、止まれ」

「っでも!!」

「命令が聞こえなかったのか!!」

奏多の一喝に暁は怯み、ようやく動きを止める。

振り返った奏多は、琴音の前では決して見せない顔をしていた。あまりにも暗く、死戦を掻い潜ってきた目。

俺が、そうさせてしまった目だ。

「…奏多、暁と待機してろ」

「分かってますよ。…“その子”尋問します?」

ゾクリと背を何かが撫でる。

目の前にいるのは南 奏多だと分かっている。なのに、こいつは“奏多”じゃない。

スイッチが切り替わりやがったのか…。