麻夏くんに促されるまま、立ち上がり教室を出ていく。
血が伝う手首をティッシュで押さえつけ、軽くうつむいて進む。肩に触れる手はやっぱり男の子の手で、少しだけ恐怖を感じてしまった。
「葉月さん!」
「?」
呼ばれたことに気づいたと同時に頭から誰かにぶつかる。
少しふらついて顔を上げる。まっすぐ私を見下ろす季龍さんと視線が重なり、文字通りに固まった。
…どうして季龍さんがいるの?
さっきまでは確かにいなかったはずなのに。どうして、ここにいるんだろう。
「…お前、手どうした」
「…ぁ」
季龍さんの視線が左手首に向く。引っ込めようとした手は季龍さんに捕まれて引き寄せられる。
右手で押さえていたティッシュが離れ、傷が露になる。
「…なにした」
「…“転びました”」
「転んだ?…お前、ドジなのか天然なのかどっちだ」
呆れたような顔をした季龍さんは、掴んだ手をそのままにして歩き出す。
振り返ると、麻夏くんは心配そうな顔をしながらも追って来ようとはしない。そのことに安心して、季龍さんの背に視線を戻す。


