私のご主人様Ⅲ


麻夏くんに促されるまま、立ち上がり教室を出ていく。

血が伝う手首をティッシュで押さえつけ、軽くうつむいて進む。肩に触れる手はやっぱり男の子の手で、少しだけ恐怖を感じてしまった。

「葉月さん!」

「?」

呼ばれたことに気づいたと同時に頭から誰かにぶつかる。

少しふらついて顔を上げる。まっすぐ私を見下ろす季龍さんと視線が重なり、文字通りに固まった。

…どうして季龍さんがいるの?

さっきまでは確かにいなかったはずなのに。どうして、ここにいるんだろう。

「…お前、手どうした」

「…ぁ」

季龍さんの視線が左手首に向く。引っ込めようとした手は季龍さんに捕まれて引き寄せられる。

右手で押さえていたティッシュが離れ、傷が露になる。

「…なにした」

「…“転びました”」

「転んだ?…お前、ドジなのか天然なのかどっちだ」

呆れたような顔をした季龍さんは、掴んだ手をそのままにして歩き出す。

振り返ると、麻夏くんは心配そうな顔をしながらも追って来ようとはしない。そのことに安心して、季龍さんの背に視線を戻す。