私のご主人様Ⅲ


ただの薄情なのか、それとも罪悪感に襲われないように自分を抑えているのか。

自分のことなのに、私はそんなことも分からなかった。

「…琴音?」

「…」

「…悪い。怖がらせた」

無器用に、私を怖がらせまいと微笑んだ暁くんは、すぐ視線を逸らし様子をうかがうように廊下を見つめる。

…暁くん、ごめんなさい。

これが起こることを私は知っていた。いつどころで襲撃が起こるのか。どんな作戦で、どのような襲撃の仕方なのかさえ。

すべて知っていても答えない私は、永塚組を傷つけていく。

守ってくれた人たちの信頼も、優しさも踏みにじって私は舛田に情報を渡す。

それが、お父さんのところへ帰る、1番の近道だから。

目を閉じる。

騒ぎが落ち着くまで部屋からは1歩も出ず、慌てて用意した食事もあまり喉を通らない。

自分が決めた道。これが、私が交わした契約。

分かっていても、心のモヤモヤが晴れることはこの先ずっとないだろう。

例え、成功したとしても…。