「ねぇ、琴音。話あるんだけど」

久しぶりに自分に向けられた声に顔をあげると、高崎さんがいる。

女子の敵とただのぼっちに遠慮がちに視線が集まる。いや、集まっている時点で遠慮なんかしていない。

高崎さんは私を睨み付けるように見つめているけど、その顔は悔しさに滲んでいた。

「季龍くんのなんなの?」

「…」

「人の彼氏に手出さないでよ!!」

バンッと机を叩いた音と悲痛な叫びに教室がまた静まり返る。

じっと見つめていると、潤んだ瞳が私を射抜く。

…彼氏、ねぇ。

冷めていく心はこんな状況でさえ、他人事のように映す。

高崎さんが涙を流しても、なにも感じない。

「季龍くんと一緒に登下校までして!見せつけてるわけ!?季龍くんは私の彼氏なの!横取りもいい加減にしてよ!!」

「…」

ばっかみたい。季龍さんが彼氏?私が横取り?

なに夢見てるんだろうこの人。第一、昨日の、あんな状況を見て私と季龍さんが付き合ってるなんてよく言えるな。

おめでたい人。冷めた目で見続けていると、高崎さんはわざとらしく泣き始めた。