『今日は疲れただろう。今はゆっくり休みなさい』
笑みを浮かべたまま、老人はそう告げて屋敷の中に入っていく。
俺と梨々香が通されたのは客間らしき部屋で、外には見張りがついた。
警戒されているのは、すぐに分かった。だが、気を張り続けたのと時間が時間だっただけに、すぐに眠った。
そして翌日。
昨日の親父さん(さっき組長だと判明した)と2人きりで対面した。相変わらず優しげな顔はしていたが、その裏では何を考えているのか。
顔に出ない分、不気味さを感じずにはいられなかった。
『そう気を張らなくてもいい。信洋から粗方は聞いているが、お前の口からもう一度どうして組を飛び出してきたのか、聞かせてくれないか?』
『…わかり、ました』
なんとかそう返し、母が人身売買にかけられたところから話始めた。
親父さんは真剣な顔で俺の話を聞いてくれて、すべてを話終えると肩の力を抜くように息を吐いた。
『よくやったな』
『っ!?…俺は、ただ梨々香を守りたかっただけだ』
『それを聞いて安心した。…わしの息子にならんか?』
『そんなことをすれば、あんたまで狙われる!俺は誰かを巻き込むつもりは…』
『どうやって守るんだ?ここはいい隠れ蓑だろう』
『っ…』
親父さんの言葉は図星でなにも返せなかった。
お前をそれすらも察して親父さんは俺を見て笑う。その顔は優しくて、ただのじいさんのように見えた。


