私のご主人様Ⅲ


『今日は疲れただろう。今はゆっくり休みなさい』

笑みを浮かべたまま、老人はそう告げて屋敷の中に入っていく。

俺と梨々香が通されたのは客間らしき部屋で、外には見張りがついた。

警戒されているのは、すぐに分かった。だが、気を張り続けたのと時間が時間だっただけに、すぐに眠った。

そして翌日。

昨日の親父さん(さっき組長だと判明した)と2人きりで対面した。相変わらず優しげな顔はしていたが、その裏では何を考えているのか。

顔に出ない分、不気味さを感じずにはいられなかった。

『そう気を張らなくてもいい。信洋から粗方は聞いているが、お前の口からもう一度どうして組を飛び出してきたのか、聞かせてくれないか?』

『…わかり、ました』

なんとかそう返し、母が人身売買にかけられたところから話始めた。

親父さんは真剣な顔で俺の話を聞いてくれて、すべてを話終えると肩の力を抜くように息を吐いた。

『よくやったな』

『っ!?…俺は、ただ梨々香を守りたかっただけだ』

『それを聞いて安心した。…わしの息子にならんか?』

『そんなことをすれば、あんたまで狙われる!俺は誰かを巻き込むつもりは…』

『どうやって守るんだ?ここはいい隠れ蓑だろう』

『っ…』

親父さんの言葉は図星でなにも返せなかった。

お前をそれすらも察して親父さんは俺を見て笑う。その顔は優しくて、ただのじいさんのように見えた。