『忘れろ』

『…』

『お前に母親なんていなかったんだ』

『………………っ』

そのときようやく分かった。

母親を売ったのは他でもない、父親であることを。

自分の妻を人身売買にかけた男は、あまりにも静かで、何を考えているのか分からなかった。

『組長、時間です』

『あぁ』

『…』

組員に呼ばれた親父は立ち上がる。

俺に見向きもせずに部屋を出ていった親父は、“家族”なんかどうでもよくて、どこまでも非情に見えた。

母親がいなくなったことで、生活は一変した。

当たり前だった生活は一斉に崩れ去り、そこに温もりも優しさも消え去った。

組員たちは俺たちに見向きすることなく、親父も俺たちのことはいないもののように扱った。

当然のように俺は荒れ、ケンカや万引き、やれることはなんだってやった。

生きるために、向けられなくなった思いを打ち消すように。