「避けるな」

「…」

「俺から逃げようとするんじゃねぇ」

季龍さんのまっすぐな瞳に捕らえられたように、体は動かない。

フェンスに押し付けられていた体が引き寄せられて、抱き締められる。

ドクドクと聞こえてくる心臓の音は速い。でも、抱き締めてくれる手が、腕が、体が温かくて、安心する。

「お前を傷つけさせねぇ。お前を傷つける奴は俺が許さねぇ。だから、お前は離れるな」

「…コク」

自然と頷いてしまう。頭を撫でてくれる手は温かくて、恐る恐る浴衣を掴んだ手もそれでいいと言うように強く抱き締められた。

そのまま、文化祭が終了するまで屋上にいた。その間季龍さんはずっと手を繋いだままだった。

その時、不意に心臓が高鳴ったけど、それは今までに感じたことがないもので、それがなんなのか理解はできなかったけど、不快なものじゃなくて、心が暖かくなった気がした。