そのままやって来たのは季龍さんの部屋で、部屋に入った途端腕は離されてその場に突っ立ったままになる。

頭の中がぐちゃぐちゃで、何をしたらいいのか、どうしたらいいのか訳がわからなくてただただその場に立ち尽くしていた。

「琴音、こっちに来い」

「…」

ベッドに腰かけている季龍さんに呼ばれ、ふらふらと引き寄せられるように近づく。

季龍さんの前で立ち止まると、手を引かれ、あっという間に抱き締められる。いつもならすぐに離れなきゃと思うのに体は動かない。

「き、りゅ…さん………」

「今は寝ろ。お前の親父はこっちで何とかする。…お前がここで役割をこなす限り、必ずな」

「…」

「言っている意味、分かんねぇわけじゃねぇだろ」

鋭い視線に射ぬかれ、息を飲む。

役割をこなす限りということは、私が使い物にならなかったら、お父さんを見捨てるということ。

体から血の気が去っていくのが分かる。

動かなきゃ、ちゃんとしなきゃ…。お父さんが死んじゃう。

慌てて立ち上がろうとしたけど、それ以上の力で押さえつけられて動けなかった。

「分かればいい。…今は休め。さっさと寝ちまえ」

頭を撫でてくれる手が暖かい。

力が抜けていくのに合わせて、力強く抱き締められる。

顔をあげると季龍さんの表情が、どこか悲しむように見えたような気がしたけれど落ちていく意識に逆らえず、目を閉じた。