…嫌だ。季龍さんに会いたくない…。
奏多さんの服を掴み、きつく目を閉じる。
嫌だ。1人で季龍さんに向かえる自信がない。怖い。また、また怒らせてしまったら、どうなるか…。
奏多さんの服を掴んだまま、固まっていたけれど、ずっとそうしているわけにもいかない。
心配そうな顔をする奏多さんと暁くんを見送り、1人残った台所で深いため息をつく。
無理矢理口に入れた夕食も喉に通らず何回もむせて、結局全てラップに包んで冷蔵庫に入れた。
水を飲むのが精一杯で、気持ち悪さを押し殺すことに集中するしかなかった。
「琴音」
「ッ!?」
不意に響いた声に身体中に緊張が走る。
弾かれたように顔をあげた先には季龍さんがいて、心臓が大きく音をたてた。
…怖がるな。普通にしてろ。お願いだから、震えないで…。
ドクドクと音をたてる心臓に、吹き出る冷や汗だけでも気持ち悪いのに、勝手に震える手足にどうしようも出来なくなる。
返事もなにもできないまま、季龍さんを見つめ固まっていると、季龍さんは台所に入ってくる。


