私のご主人様Ⅲ


…嫌だ。季龍さんに会いたくない…。

奏多さんの服を掴み、きつく目を閉じる。

嫌だ。1人で季龍さんに向かえる自信がない。怖い。また、また怒らせてしまったら、どうなるか…。

奏多さんの服を掴んだまま、固まっていたけれど、ずっとそうしているわけにもいかない。

心配そうな顔をする奏多さんと暁くんを見送り、1人残った台所で深いため息をつく。

無理矢理口に入れた夕食も喉に通らず何回もむせて、結局全てラップに包んで冷蔵庫に入れた。

水を飲むのが精一杯で、気持ち悪さを押し殺すことに集中するしかなかった。

「琴音」

「ッ!?」

不意に響いた声に身体中に緊張が走る。

弾かれたように顔をあげた先には季龍さんがいて、心臓が大きく音をたてた。

…怖がるな。普通にしてろ。お願いだから、震えないで…。

ドクドクと音をたてる心臓に、吹き出る冷や汗だけでも気持ち悪いのに、勝手に震える手足にどうしようも出来なくなる。

返事もなにもできないまま、季龍さんを見つめ固まっていると、季龍さんは台所に入ってくる。