屋敷に着くと、何事もなかったかのように夕食の支度を始める。
あえて私の口から感じた違和感について尋ねることもなく、いつもと同じように過ごす。
それを求められているように感じたのは多分、気のせいではないと思ったから。
「琴音ちゃん、後で若が来ると思う。怖がらなくていいからね」
案の定、突然告げられた言葉は普段と違う言葉。
そして、季龍さんに会わなければいけないということに身体中から汗が吹き出たような気持ち悪さに襲われる。
季龍さんを怒らせたあの日から全く顔も見ていなかった。
怖がるくらいなら、姿を見せるなと言われたのに。まだ、体が勝手に震えてしまうのに。
このままじゃ、また怒らせてしまう…。
どうにか静めようとしても、体は言うことを聞かない。
まだ会ってすらいないのに、震え始める両手を握り合わせ、力強く握りあった。
「…琴音ちゃん、大丈夫だよ。すぐ終わる話だから」
「…」
奏多さんが慰めるように頭を撫で、抱き締めてくれる。だけど、全然緊張は収まらなくて、酷くなる一方だった。
次第に吐き気までしてきて、頭がくらくらする。


