手を布団から出すと、意図を察した舛田がスマホを差し出してくる。

そこに何とか文字を打ち込んだ。

『最後に行かせてやると言われた』

「…つまり、これがラストチャンスというわけか」

舛田が言う通り。今日、この日がラストチャンス。

永塚組を潰す舛田の目的を、私が情報を流して確実に行うことが出来るのは今日を置いて他の日にはありえない。

だから、舛田は一巡したものの、下した判断はこれを置いて他にはない。

差し出されたのは茶色のビンだ。中には何かの液体が入っていた。

「睡眠薬だ。晩飯に混ぜろ」

「っ!?」

「失敗すれば、お前は捨てる。成功したなら、日付が変わったと同時に正面の門を開けろ」

そんなの、あんまりだ。私は後に引けないというのに、こいつは自分だけ逃げ道をしっかり確保している。

約束と違う。

舛田を睨み付けても、表情は変わらない。そして思い出す。こいつも、ヤクザなんだ。

人を殺し、殺される世界。そんな世界の住人が、感情論で危険な橋を渡ることはしない。