「隼は、ここで6年間頑張ったんだね」
私たちは誰もいない教室に来た。
ここの教室は、隼が使っていた教室みたい。
「隼の席は?」
「俺はいつも廊下側の後から5番目に座ってたよ」
隼はそう言ってどうぞ、とその席の椅子を引く。
私は遠慮せずそこに座る。
そして黒板を眺める。
「隼が選びそうな席」
なんだかおかしくて笑う。
「なにそれ。どういう意味?」
隼も笑いながら前の席に座り後ろを向く。
「ねえ、なんだか戻ったみたい。高校生に」
私はそう言って窓の外を見る。
窓にあたる雨音。
静かな教室。
隼と2人。
「そうだね。
…じゃあ優衣。契約しよう」
「え?」
おかしくて思わず笑いがこぼれる。
「俺は優衣がすき、優衣は俺が好き、これに間違いないよね?」
「ないよ」
茶番に付き合ってやろうと私は笑いながら答える。
隼はニヤリと笑う。
「じゃあ、優衣の一生俺に頂戴。
俺の一生も優衣にあげる。
どう?悪い話じゃないと思うけど」
いつかの私のように言った隼は、私の右手の薬指に指輪をはめた。
「へ?」
どういうこと?
「どう?」
隼はそんな私をみてくすりと笑って言う。
「その話、乗った」
そんなの、この答え以外ありえない。
嬉しくて頬が緩む。
「じゃ、契約成立」
隼はそう言って私にキスをした。
あの時とは全然違うキス。
「これからよろしくね、優衣」
「こちらこそ、隼」
私は、右手にある指輪を優しく包み込んだ。
fin…