旦那様、という彼女らの言葉。青年の言動。それに何より、彼が自然とその身にまとう威厳。

この方が———


「はじめまして、ミス———」
沈黙を破ったのは、長身の青年の方だった。

「こちらの方は、この邸の主、ヴィンターハルター侯爵、クラウス様です。
わたしは家令のリュカ・クリストフ。
領内の湖で溺れている貴方を見つけ、ここへお連れした次第です。
わけをお聞かせくださいませんか?」

言葉遣いは丁寧だが、名家の家令たる矜持が感じとれる。

「わ、わけと言うほどの・・」
毛布のはしを握ってうつむく。

「勝手に俺の敷地内で死のうとするな。迷惑なやつだな」

投げつけられたクラウスの不機嫌な声に、返す言葉もない。

クラウスが、ベッドのかたわらに近づいてくる。