「そうでしょうね。こんなに可憐な方をお連れでは」
青年の視線が、すっとフロイラに移る。

「聞きしに勝る美しさだ。この紫水晶の瞳には、思わず吸い込まれそうになる」

てらいもなく口にされて、もじもじするばかりだ。

「ご覧のとおりです」
クラウスの返事には愛想のかけらもない。

「初めまして、ミス・フロイラ。リアネル・バートフィールドと申します。以後お見知りおきを」
青年がなめらかな仕草で、フロイラの手を取ると、腰をかがめて口づけようとする。

っ!

その手を、横から伸びてきた手が素早くつかんで奪い取る。クラウスだった。
腰をかがめたリアネルの手と口の先には、空しかない。

「ーーー失礼、小公爵殿」
フロイラの腰を抱き寄せ、クラウスが低い声を出す。

「令嬢は今夜が社交界デビューです。内気な性質で、初対面の方に近しくされるのは苦手としているもので」

それは嘘ではない。