冷徹侯爵の籠の鳥~ウブな令嬢は一途な愛に囚われる~

彼女らの視線がことにこたえた。
なんといってもクラウスは若い独身の侯爵で、おまけに有能な実業家の顔も持つ。
娘たちの気を惹かずにはおかない存在だろう。

ひりひりと人の視線が突き刺さるようで、できることならどこかに姿を隠してしまいたいくらいだ。

失礼、という声に視線を上げる。

どなたかしら?

甘やかな顔立ちの青年だった。

「ーーーバートフィールド小公爵」
クラウスが平板な声を出す。

「ヴィンターハルター侯爵、お久しぶりです。あなたが舞踏会に出席されるとあって、今夜はお嬢様方が大変なはりきりようですよ」
屈託のない、よく通る声だった。

「そちらは小公爵にお任せします」

邪魔な物を片付けるような言い方だった。
小公爵という敬称からして、公爵家の嫡男で、いずれ爵位を継ぐ立場の方だと察しがつく。

ふと舞台の芝居を見ているような気がした。王子様の役が似合いそうなひとだ。
澄んだ空のような明るい青の瞳に、かるくウェーブのかかった金茶色の髪。

それであるのに、彼、クラウス・ヴィンターハルターの前にあっては、この甘やかな顔立ちの青年は、芝居の書き割りのように薄っぺらく霞んでしまうから、不思議だった。