冷徹侯爵の籠の鳥~ウブな令嬢は一途な愛に囚われる~

「フロイラ・ラインハート嬢です。今は当家へ身を寄せています」

「今日はどうぞゆっくりしていらして下さい」

カースル卿の言葉に、「ありがとうございます」となんとか挨拶をすませ、室内へ入る。
舞踏室は多くの人々で賑わっていたが、クラウスが歩みを進めると、そこは彼専用の通路かと錯覚するほど、誰もが場所を譲ってゆく。
彼の社会的立場の高さを改めて実感する。

周囲の視線がこちらに集まっている。人々がひそひそ囁き交わしているのが分かる。
「ヴィンターハルター侯爵ともあろう方が、あんなさえない娘を連れて」と言われているような気がしてならない。
ついついうつむき加減になってしまう。こんなに人に注目されるなんて、生まれて初めてだ。

未婚の若い娘たちは皆、花園のように色とりどりのドレスに身を包んでいる。金髪を巻いたり、ふわふわと波打たせたり、華やかな上にもさらに華やかに装って、自分の美を誇示することにためらいがない。
生まれながらに富裕で、苦労知らずの令嬢たちに比べると、自分の思考はなんとも卑屈だ。

場違い、そんな言葉が頭をよぎる。