冷徹侯爵の籠の鳥~ウブな令嬢は一途な愛に囚われる~

クラウスと馬車に揺られることしばし、優美な円屋根と円柱を持つカースル卿の邸に到着した。

正装した男女のペアがつぎつぎに扉に吸い込まれてゆく。
クラウスとフロイラも、扉に立つアシャー(案内係)に名を呼びあげられて、中へと進んだ。

フロイラにとっては尻込みしてしまうほど、きらびやかな空間だが、クラウスは平然と舞踏室へ足を進める。

舞踏室ではカースル夫妻が来客を迎えていた。

「これはこれは、ヴィンターハルター侯爵。お越しいただき光栄です」
クラウスの姿を目にするなり、カースル卿が社交辞令を抜きにした喜色を浮かべて、歩みよってきた。

「こちらこそ、お招きいただきありがとうございます」
クラウスの受け答えは如才がない。

その気になれば、毒舌を封印して侯爵の立場にふさわしい態度を通すことができるようだ。

「そちらのお嬢さんが、噂の伯爵令嬢ですの? なんて可愛らしい方なのかしら」
カースル夫人の言葉は、クラウスの立場へのお世辞と考えるべきだろう。