冷徹侯爵の籠の鳥~ウブな令嬢は一途な愛に囚われる~

「入るぞ」
クラウスが部屋に姿をあらわした。後ろには、リュカの姿もある。
しびれを切らして迎えに来たのだろうか。

「申し訳ありません。支度が遅く・・・」

メイドたちも身を縮めている。

「いや、いい。今日はお前が主役だからな」

正装のクラウスを目にするのは、初めてだった。
生地と仕立ての良さが一目でわかる三つ揃い。
白い絹のシャツに、臙脂のベスト、黒のジャケット。ベストには同色の糸で精緻な刺繍がほどこされている。

見事な衣装だけれど、クラウスはそれらをまるで何でもないように、さりげなく着こなしている。
生まれついての侯爵たる者の威厳だろう。

ドレスに舞い上がっている自分との差を、感じてしまう。

「エスコートしてやる」
と手をとられる。

そっと、彼の腕に手をかける。
不釣り合いなのは承知だけれど、これは務めだと自分に言い聞かせて。