冷徹侯爵の籠の鳥~ウブな令嬢は一途な愛に囚われる~

舞踏会に出かける夕刻。
フロイラの身支度を手伝いながら、メイドたちも浮き足立っていた。

「舞踏会にお出かけになる令嬢のお支度を整えるなんて。やっぱり女性がいらっしゃると華やぎますわね」

「旦那様が舞踏会に出席されるなんて、どれくらいぶりかしら」

「そんなにクラウス様は、社交界と距離をおいていらっしゃるの?」
髪を梳いてもらいながら、訊いてみる。

それはもう、とメイドたちがうなずく。

「招待状は届くのですけど、出席されることもなければ、人を招かれることもありません。親戚付き合いさえあるのかどうか・・・」

「もっぱら事業にお忙しくされていて、ときどきリュカ様と狩りを楽しまれるくらいです」

メイドたちはその多くが若い女性だ。どうせ仕えるなら華やいだ邸で、とも思うのだろう。

この邸に来てからひと月ほど、そういえば来客らしい来客はなかった。
親戚付き合いさえほとんどないとは、どういう事情だろう。
クラウスはヴィンターハルター家の当主であるはずなのに。