貧乏貴族の娘であるフロイラには、まぶしいほど豪奢な室内だった。

「ま、いけませんわ、無理をなさっては」

「いえ、とんだ迷惑を・・・」


まったくだな。

その一語で、空間が圧される感覚に襲われた。大声を張っているわけでも、低めた声を出しているわけでもない。それなのに———

びくり、とその声の方向、すなわち入り口に視線をむける。

自分を鋭く貫く、一対の黒曜石の双眸。まだ若い、自分とそう年も変わらないように見える青年だ。暗赭色の髪がひときわ目を引く。

すぐ背後に、まるで影のように、眼鏡をかけた黒髪で長身の青年が控えている。

「旦那様、リュカ様・・・」

お前たちは下がれ、と青年がメイドたちに命じる。
よく訓練されたコマドリの一群のように、メイドたちがスカートの裾をひるがえして、部屋を去ってゆく。