冷徹侯爵の籠の鳥~ウブな令嬢は一途な愛に囚われる~

「まあ、曲がりなりにも貴族の娘だ。学校教育も受けているわけだしマナーは及第として、ダンスの経験は?」

「学校で習いました。あとは父とたまに踊ったくらいです」

しょうがないな、とクラウスが髪をかきあげる。

「あんまり格好がつかないのも困るから、レッスンをつけてやる」

すっと手を差し出される。おっかなびっくりその手をとる。
背に手が回され、身体が寄せられる。

うまく息ができない。

「なんだ緊張してるのか、今さら」
クラウスの声は笑いを含んでいる。

恐れ多いような、恥ずかしいような、そんな気持ちをなんと言葉にすればいいのだろう。

「犬が怖いときは自分からしがみついてきたのにな」

「お、おっしゃらないで・・」
顔に熱が集まるのがわかる。

「あまり体に力を入れるな。目をつぶっていてもいい。リードに身を任せるんだ」

ぶっきらぼうな言葉とは裏腹に、繋がれた手は暖かくて、回された腕はやさしくて、胸がざわめく。

なにも考えまいとする。そうはいっても、難しいのだけど。