思わず「えっ」と小さくもらす。
「わたしの部屋ですか? 特に不都合などはありませんが・・・」

どころかどう見ても漆喰は塗り直されたばかり。家具も壁紙もカーペットも明らかに新しく用意されたものだ。

「長いこと女が不在の邸だからな。間に合わせで作った部屋だ。もっと部屋の主にふさわしいものにしたほうがいいだろう。好みがあるなら言ってもいいぞ」

「いえっ、そんな!」
思わず両手を顔の前で勢いよくふる。
「今のままで十分です。ほんとうに」
力を込めて言う。

「もう呼んでる」
クラウスはしれっと告げる。

それに、と続けた。
「褒美みたいなものだ。包帯が取れたからな」
ちらりと左腕に目を落とす。

シャツに覆われて見えないけれど、犬に裂かれた牙の痕はうっすら残っているはずだ。
なぜ褒美という言葉が出てくるのか。包帯の交換を務めたことへなのか。

罰されてもおかしくないはずなのに、褒美と言われても恐縮してしまう。