分からない・・・

思えば、自殺をはかったときのほうが、世界はよっぽど単純だった。

父を亡くし、生活のあてもなく、親族には望まぬ結婚を強要され、生きているのが辛く苦しかったから。

今はーーー
わけも分からないうちに、物質的には何ひとつ不自由ない身になり、結婚の話も立ち消えになった。
そして、自分がもっとも苦手とする類の人物と一緒に暮らしている。

幸せとも不幸とも言い難い。
死に場所を求めて領内をさまよっていたのが、ずいぶんと遠い昔の事のように感じられる。


午後建築士を呼んでいる、とフロイラがもっとも苦手な人物にして養い主であるクラウスが、前置きもなくそう言った。
朝の食事のテーブルだ。

「はい」
意図は不明だけれど、とりあえず返事をする。

「お前の部屋に手を入れさせる」