なにかが引っかかる。違和感がある。
クラウスの態度や言葉を反芻するたび、その思いは強まるばかりだ。

そもそも最初から———ルーシャのことを問うたフロイラに「そんな名の女はいない」と彼は返した。

ヴィンターハルター一族ともなれば、連なる者は多いだろうし、クラウスが存在すら認識していない人物もいるはずだ。

なぜ「聞いたことがない」ではなく「いない」と、名を聞いただけで断じたのか。
ルシアナの話になると、彼の態度はいつも以上に剣呑になる。

胸に秘めていたいところだけど、クラウスはそれも許してはくれない。

持ち物を燃やし、泣き叫ぶ自分を冷酷に拘束した腕の靭さは、何度でもフロイラを怯えさせる。
それなのに、襲ってくる番犬の群れから自分をかばってくれたのも、彼の腕の中で。

恐ろしい人だとも、優しい方だとも思ってしまう。

誰かにこんなに相反する感情を抱くのは、生まれて初めてだ。