自室に下がっていると、フロイラ様、とアンナ・マリーが入ってきた。
「旦那様が書斎にいらっしゃるので、お茶を運ぶようにと、リュカ様が」

「・・わかったわ」

トレイに載せられたティーセットは、カップが二つだった。

お客様?と思ったが、書斎にはクラウスの姿しかない。
本棚を前に、こちらに背を向けている。

「侯爵様・・お茶をお持ちしました」
おずおずと声をかける。

「堅苦しいな、その呼び方は」
クラウスが、こちらを向いて言う。

ではなんと呼べばいいのだろう。

「リュカと同じように呼べよ。慣れてるからな」

「ーーークラウス様」
ぎこちなく口にする。

それでいい、とうなづく。
「俺は自分の名が嫌いじゃない」

自分の名に好きも嫌いもあるのだろうか、と思ったけれど、もちろんそれ以上詮索はしない。

「あの、こちらでよろしいでしょうか? お入れしますか?」
トレイをテーブルに置いて問う。