「どうして侯爵様は、わたしをこの邸に迎えてくださったのかしら?
なんの得にもならないのに・・・」

ずっと胸にくすぶっている疑問だ。


「それは・・・」
アンナ・マリーが言いよどむ。

使用人の身で出すぎたことを申しますが、と前置きして。
「身寄りのない伯爵家の令嬢に手を差し伸べたとあれば、一つの美談でしょうから。
社交界での評判は上がるのではないでしょうか。この家の財をもってすれば、人が一人増えたところで、なんの問題もないでしょうし」


筋の通った説明ではある。
しかし、あのクラウスが社交界の評判を気にかけて、人気取りのような真似をするだろうか。
いまひとつ、釈然としない。