「なにごとも加減は難しいものです」
メイドのアンナ・マリーが慰めるように言う。

「侯爵様はなにもおっしゃらないけど、内心苛立っているのではないかしら。リュカ様は何をしても手際のいい方だし・・・」

「本当に気に入らなければ、旦那様はとっくにお役目を外しているのではないでしょうか」
気の長い方ではありませんから、と付け加える。

確かにそうだろうけど・・・


「そもそも旦那様が、女性をこの邸に迎えたり、身の回りの世話を命じられたりするなんて、今までありえなかったことです。皆驚いています」

アンナ・マリーはフロイラ付きのメイドの一人だ。そばかすにくるくると動く大きな目をしたメイドで、年の頃はフロイラと同じくらい。
快活でおしゃべり好きなアンナ・マリーにフロイラはすぐに打ち解けることができた。