冷徹侯爵の籠の鳥~ウブな令嬢は一途な愛に囚われる~

様子はどうだ、とクラウスがリュカを伴ってあらわれる。

「お腹いっぱいになって、眠くなったみたいです」

フロイラの膝に頭をもたせて、気持ちよさそうに目を細めている。

「他愛ないものだな」
仕切りの馬栓棒に腕をのせて、クラウスは合いの仔を覗きこむ。

「クラウス様、この仔に名前はあるんですか?」
柔らかな毛を撫でてやりながら、フロイラが問う。

「牡(オス)だが、名はついてない」

「せっかくですから、つけてあげてください」

それをすべきはこの邸の主たる者の役目と、フロイラはわきまえていた。

そうだな、とつぶやいて幼い仔を見下ろしていたクラウスだが、やああって「———ミジビル」と告げた。

「ミジビル、ですか。不思議な響きですね」
フロイラが小首をかしげる。

「たしか、土地の古い伝承に出てくる精霊の名前だ」

「言われてみると、しっくりきますね」

羊でもヤギでもない、この仔どもに似つかわしい名と感じられた。

ミジビル、とフロイラが撫でてやりながら呼ぶと、耳をピクピクと動かしてみせる。
与えられた名に反応したかのような仕草だった。