物心ついたころから、自分が男だという自覚があった。
つまり大きくなったら父のようになるのだと。

だが、母やメイドたちのいうことは違っていた。
「ルーシャ、あなたは女の子なのよ。とても体が弱いのだから、おとなしくしてらっしゃい」

そうしなければ死んでしまうかもしれないのだと、繰り返し言い聞かせられれば、幼い心には素直に信じるしかなかった。

そして願った。
いまは体の弱い女の子だけれど、成長すれば、丈夫な男の子になれるのだと。

体をすべて覆い隠すひらひらしたドレスも、ぴかぴかのエナメルの靴も、日中はつねに被らされている巻き毛のかつらも、与えられる人形やぬいぐるみも、何もかもが気に入らなかったけれど、諦め受け入れるしかなかった。

両親と数人のメイド以外の人との接触はほとんど無く、邸の外にさえ、なかなか出してもらえず、人形とぬいぐるみに埋もれるような部屋の中と窓から眺める風景だけが、ルーシャの知る世界のすべてだった。