冷徹侯爵の籠の鳥~ウブな令嬢は一途な愛に囚われる~



「邸を留守にされるのですか」

フォークを握ったまま、思わず食べる手が止まってしまう。

仕事の大きな案件がある、とクラウスは説明した。

「毎日街に出向くより、宿をとることにした。心配しなくても、四日後には戻ってくる」

なだめるように言われて、フロイラは自分が心細げな顔をしているのだと知った。
クラウスが家令のリュカを連れて、邸を何日か空けるのだ。

それから数日は、使用人ともどもクラウスの旅支度に精を出した。といってもフロイラがやったことといえば、衣装を納めるトランクに、庭や温室で摘んだ花でつくったサシュ(匂い袋)をしのばせたくらいだけど。

「お前を連れていってもやりたいが、俺は仕事にかかりきりだし、一人で宿に置いておかれるよりは邸にいた方がまだいいだろう」

「ーーはい」

頭では分かっているのに、置き去りにされるような心もとなさだ。