冷徹侯爵の籠の鳥~ウブな令嬢は一途な愛に囚われる~

いるだけで胸が満たされ、同時に苦しいくらいにしめつけられる。

あの二人の秘密の場所までちゃんとあった。レンガ塀と木の幹の間の隙間だ。
サンボンネットをかぶった少女が隠れてないかと、思わず覗きこんでしまった。


想い出を取り戻そうとしてだろうか。
「クラウス様は弓矢を作って遊んだことはありますか?」
食事の席でそんなことを訊いてみた。

弓矢? 訝しげに聞き返される。

「はい。男の子が作って遊ぶような」

「まぁ・・子どもの頃はな。男なら誰でも作るんじゃないか」
なぜそんなことをと、言外に問うている。

「わたしも子どもの頃作ってみたかったんです。でも教えてくれる人がいなくて」

「女には珍しいな。小鳥でも撃ちたかったか」

「ち、違います。リンゴの実を落としたかったんです」
求めてもどうしても手に入らなかった。赤い実も、弓矢の作り方も。

今さらながら気になった。裏庭にはあの時と同じように、リンゴの実がなっているのだ。