冷徹侯爵の籠の鳥~ウブな令嬢は一途な愛に囚われる~



「ーーーどこに行ってた」

手にした本に目を落としたまま、クラウスの問いが飛んでくる。

「申し訳ありません、裏庭のほうに・・・」
息を切らしながら、返事をする。

またか、と不機嫌そうなつぶやきに鼓膜を擦られ、首をすくめたくなる。

ひまさえあれば裏庭へ行って、飽くことなく見て回り、使用人をつかまえては庭のことについて聞いていることは、当然クラウスも知っている。

ちなみに今のところ、庭についてのめぼしい情報は手に入っていない。十年以上勤めている使用人も一様に、庭はその以前からあった、おそらくは先代の侯爵が作らせたものではないかと口を揃えた。

庭のことにかまけていると、クラウスが用向きの時に部屋に不在、という事態も起こるようになる。
クラウスが快く思わないことは察せられるのだけど、止めることはできなかった。

「・・・申し訳ありません」
そう繰り返すしかない。

「固い本を読んで、いささか疲れたな。詩でも朗読しろ」

「はい、ただいま」

すぐさま書棚に向かう。