冷徹侯爵の籠の鳥~ウブな令嬢は一途な愛に囚われる~

「ーーーこれはこれは、小公爵殿」

温室の花たちまでもが身をすくめそうな声が、割って入る。
この邸の主、クラウス・ヴィンターハルター。

「ああ、侯爵殿、お邪魔しております」
リアネルは感じのよい笑みを浮かべて、さりげなくフロイラの手を離す。

「招かれてもいないのに、こんな血なまぐさい噂が付きまとう家にようこそ」

クラウスが大股で近づいてくる。
その黒曜石の瞳は、今は獣が奥に潜む洞窟を思わせた。

「秘された花の美しさに誘われまして」
リアネルは動じる様子もなく、言葉を返す。

すぐ傍らに立ったクラウスがフロイラの腰に手を回して、自分の腕の中に引き寄せる。

「美麗なる花園をお持ちのかたが、他家の花を手折ろうとは、あまりいい趣味とは言えませんな」

「花はか弱く儚い。こちらへ移したほうが、花にとってもーーーいや失礼、これはひとり言です」