冷徹侯爵の籠の鳥~ウブな令嬢は一途な愛に囚われる~

「それが、行方知れずなのです」

「行方知れず・・・」
ルーシャが。

「母親と一緒に外国へ行ってそれっきり。先代侯爵は奥方を亡くされてからは、自分のご子息に当主を継がせることに執念を燃やしておられて。
残されたご令嬢のことは、それっきり口の端にものぼらなくなりました」

「そんな・・・」

「噂では、そのまま外国で暮らしているとか。
あるいは、現侯爵によって人里離れた古城の塔に幽閉されているとか、ひどいものだと娼館に売り飛ばされた、人知れず亡き者にされた、とまあふっつり姿が消えてしまったものですから、あれこれ憶測は飛び交います」


いくつかの事実がぴたりと符合している。
その消えた令嬢は、間違いなくルーシャだ。彼女はクラウスの異母兄妹だった。

なぜクラウスはその存在を頑なに否定したのか。

「まあ庶子の生まれであられた侯爵殿からすれば、前の奥方との間の子どもなど邪魔者でしかないでしょうから」

クラウスはヴィンターハルター家を乗っ取ったーーー