冷徹侯爵の籠の鳥~ウブな令嬢は一途な愛に囚われる~

不思議と穏やかな日々が訪れていた。

「及第だ」

「ありがとうございます!」

毎日クラウスにお茶を出すのも、板についてきた。
最初の頃に感じていた恐ろしさや緊張は薄らぎ、クラウスとの関係もどこか和やかなものになっている。

庭園や温室を散策するクラウスに、ときに寄り添って歩く。

「じっと座って考えごとをしても、煮詰まるからな。足を動かしたほうがいい」

「気分転換になりますね。特に天気のいい日には」

「ああ、馬を走らせるのも気晴らしになる。乗馬の経験は?」

「残念ながら・・・」

「そのうち乗り方を教えてやる。最初はポニーがいいかもな」

「きっと可愛いでしょうね」


かりそめの日常だという認識はあった。ずっと続くはずはないのだ。
いつまでもここで厄介になるわけにはいかない。