自分はあくまで仕える立場だ。それを忘れてはならない。

「あの、クラウス様。パイをもう一切れいかがですか」

「そうだな、もらうか」
主は鷹揚なうなずきを返す。

立ち上がるとサーバーをとり、パイに手を伸ばす。

フロイラ、
と声がかけられた。

「はい」
驚いて手を止め、顔を上げる。

「リボンが曲がってるな」
フロイラの髪に視線をあてて、クラウスがつぶやいた。

「し、失礼しました」
着ている小花模様のドレスと共布のリボンを、アンナ・マリーに耳の上のところで結んでもらったのだけど。
ドレスの模様はプリントではなく全て刺繍で、リボンもむろん合わせて作られた品だ。

「いい、動くな」

クラウスは言って立ち上がると、こちらへ手を伸ばしリボンに触れる。
シュル、というかすかな衣ずれの音。クラウスが指を動かしている。
キュっとリボンが結ばれた。