「名を名乗れ。お前は何者だ?」

「フ、フロイラ・ラインハートと申します」
つっかえながら答える。彼の存在が、ただ怖ろしい。

クラウスが眉をひそめ、小首をかしげるのが、気配でつたわってくる。

「知らない名だな」
とつぶやいた。

それはそうだろう。

「たまたま喪服を着て、たまたまこの領内に迷い込み、たまたま溺れた・・・わけではないだろう。
なぜ、ここで自殺を図った?」


地獄の審判のほうがまだマシではないかと思うほど、クラウスの口調には容赦がない。


「———わたしは、ラインハート伯爵家の娘です」
観念して身の上を話しだす。それ以外になすすべはなかった。