パン屋で生まれ育ったなら、それに慣れてるはずだから、わからないだろう。 「これ、昨日買ったばっかなんだけど、その匂いする?」 「え、……あ」 ぐいっと腕を差し出されて、確認してみて、と催促された私は、首を縦に動かして、そっと顔を近づけた瞬間。 ふわっと、その香りが私を包んだ。 「えっ……」 「油断するなよ。仮にも俺は、妃莉に惚れてる男だぞ」