男のほうと目が合って、逃げるようにそのままどこかへ行ってしまった。
ああいうのは見かけ倒しなんだ。弱い相手にだけ強気で攻めて、咳払いごときにビビって尻尾を巻く。
俺は静かになったところで再びベンチに横たわった。
……やっとこれで昼寝ができる。
再びウトウトとしてきたところで、タッタと野うさぎのように小走りな足音。それは段々と近づいてきて、テラスの窓を勢いよく開ける。
「……あの!さっきはありがとうございました」
日除けのために覆っていた右手の指の間からチラッとその姿を確認した。
膝下のワンピースにカーディガン。あんなに弱くて押し負けていたのにその顔は凛としていて。俺に向かってニコリと目尻を下げて笑った。
彼女の名前は水瀬心春(みなせ こはる)。2号館で心理学を勉強しているらしい。
「名前、聞いてもいいですか?」
せっかく昼寝の続きをしようと思ったのに。
「……高嶺縁」
俺は無愛想に答えた。



