「夫はすごく無口な人だったの。とても亭主関白で『お茶、飯、新聞』って、自分はただ座っているだけ。だから子どもの相談もしなかった」
「………」
「今思えば言わなくても分かっていてくれてるだろうと、その工程を省いてしまっていたのよ。そして時間だけが過ぎて、正式に籍さえ入れることのないまま逝ってしまった」
八重の瞳にうっすらと涙が浮かぶ。
「こうしてひとりの時間を過ごしているとね、本当に夫から愛されていたのか。子どもとは家族として生活できていたのかどうか、自分がしてきたことを疑ってしまうのよ」
八重を慰めるように頭に落ちてきた紅葉を俺はクルクルと回した。
「人間の内側なんて他人でも身内でも、それは何年一緒にいようと、どれだけ徳を積んでも全てを知り得ることなんてできねーよ」
だから俺だって、家族の本音は分からない。
そんな話をしていると、石段の中腹でずっと動かずに空気を読んでいた小鞠と目が合った。
手招きするとタッタと軽快に降りてきて「帯留めやっと見つかりましたよー!」とあまりにわざとらしい演技をするから吹き出すところだった。
「さて、昔話も済んだところで、そろそろ八重の願いを叶えに行くか」



